2012年4月26日木曜日

ミッシェル・オバマのLet’s Move! - Social Market Press


「Let's Move !」ファーストレディーの呼びかけアメリカでは過去30年間で、子供の肥満率が3倍に増えている、という。現在、約3人に1人が過体重または肥満であり、2000年以降に生まれた子供の約3分の1は、将来、糖尿病や心臓病、高血圧、がん、結核など、肥満に関連した病気を患う可能性が非常に高い、とされている。
しかし30年前にはこのような問題はほとんど見られておらず、大半の人々は健康的な体重を保っていた。この30年間で何が変わってしまったのだろうか。

その答えはライフスタイルの大きな変化にある。30年前の子供たちは毎日歩いて学校に通い、休憩時間には校庭を走り回って遊び、体育の時間や課外活動でも体を動かして遊ぶ時間が多かった。食事は自宅で家庭料理を食べ、ファストフードなどは珍しく、食事の間のスナックなどもほとんど食べる機会はなかった。
一方で現代の子供たちはというと、車やバスで学校に通い、学校での体育の時間は学校予算の都合上削減され、放課後は家でテレビやビデオゲーム、インターネットなどに没頭し、両親は共働きのため、家庭料理を食べる機会は減り、食事の間のスナックはごく普通の習慣、となってしまっている。
30年前の子供と現代の子供を比較すると、現代の子供たちは、スナックだけでも1日あたり200カロリー多く摂取しており、5人に1人の子供たちは、1日平均6回ほどスナックを食べている、という。
食事の摂取量も大幅に増えており、30年前に比べるとなんと2倍から5倍の量に増加、そして飲料も、1970年代ごろには13.6ozサイズで販売されていたソフトドリンク類が、今では20ozサイズが平均となっている。

これらを総合すると、現代の子供たちは、30〜40年前と比較して、約31%多いカロリーを摂取しており、中でも脂肪分は56%増、糖分は14%増、となっている。さらに、一日平均7.5時間を、テレビや映画を見たり携帯電話やコンピューターに向かっていたりするために使われており、適量の運動を定期的に行っている高校生は、全体の約3分の1に過ぎない。
この現象は、アメリカにとって深刻な社会問題である。

「わが国の身体的、そして精神的な健康が危機的状況に陥っています。このような問題は一晩で解決できるものではありませんが、我々皆が一丸となって取り組もうとする強い意思があれば、必ず解決できる問題なのです。さあ、Let's move !」
アメリカのファーストレディー、ミッシェル・オバマ大統領夫人は2010年2月9日、全米に向けてこう呼びかけた。


減量手術ピッツバーグのコスト

課題解決の成功の鍵は、すべてのセクターが統合された協力体制
この呼びかけの約1年前、ミッシェル・オバマ大統領夫人は、ワシントンDCの小学校の生徒たちと共に、「ホワイトハウス・キッチンガーデン」を設置し、子供たちへの食育活動を積極的に行ってきた。これらの活動を通し、課題として見えてきたのが、第一セクター、第二セクター、第三セクター、そして地域住民たちの協力による、統合された協力体制が必要だ、ということである。特に子供の肥満問題は、社会的環境のみならず、家庭での生活環境や両親の食・栄養に関する知識、学校での運動教育プログラムや学校給食、教師の食・栄養に関する知識、など等、幅広い課題に満遍なく取り組む必要がある。
そこでミッシェル・オバマ夫人は、政府・行政、医療、科学、ビジネス、教育、スポーツ、地域団体などからリーダーを募り、子供たち、そしてその家族が直面する幅広いチャレンジに対応し、支援を行う体制を構築すべく、ホワイトハウス・キッチンガーデンの活動を更に進化させよう、と考えた。それが「Let's Move!」である。

「Let's Move!」イニシアチブ始動に伴い、オバマ大統領も共に立ち上がり、史上初となる、子供の肥満問題に特化したタスクフォースを発足させた。このタスクフォースは、ファーストレディー・オフィスを中心とし、第一・第二・第三セクターの様々な組織・団体により構成され、発足から90日以内に、各分野における子供の栄養教育や運動を促進する様々なプログラムや、条例などを精査し、「Let's Move!」イニシアチブの全国的なゴール達成に向けてアクションプランや目標設定計画が練られ、それらに必要となる様々なリソースの分配が行われた。


不安やアートセラピーのプロジェクトを持つ女性
4つのポイント

現代社会にはヘルシーなライフスタイルを阻むあらゆる誘惑にも溢れている。その中で、「Let's Move!」イニシアチブが主に注力するのは、以下の4つの分野である。

• 子供の両親への教育

子供たちがヘルシーなライフスタイルを送るためには、両親が日々の生活の中で行う様々な選択が大きく影響することはいうまでもないだろう。毎日購入する食料品、献立の立て方、調理方法、食事の量、時間帯、また運動や交通手段の選択などに至るまで、様々な要素が混在している。
「Let's Move!」イニシアチブではまず、消費者としての両親たちが、食料品購入時に賢い選択をすることができるよう、食品の栄養ラベルを改善することに取り組んでいる。
アメリカ食品医薬局 (FDA – Food and Drug Administration)の協力を得て、食料品のパッケージ上の栄養ラベルをよりわかりやすく、明確な表記にすると共に、アメリカ飲料協会(American Beverage Association)では、自動販売機などで販売されるソフトドリンク類にカロリー表記を付加していく計画が進められている。
また、アメリカ小児科学会(American Academy of Pediatrics)では、医療機関の協力を得て、全国の医師や看護士に、子供の肥満に関する教育プログラムを強化し、子供の両親たちにヘルシーな食と運動の必要性を説得力を持って推進できるよう、試みている。
アメリカ農務省(USDA - US Department of Agriculture)でも、現代のライフスタイルに合わせフードピラミッドの見直しが行われている。
更に、ウォルト・ディズニーやNBC、ユニバーサル、バイアコムなどの大手メディア企業などでは、子供の肥満問題に関する公共広告PSA(パブリック・サービス・アナウンスメント)の製作・配信や、番組企画などを行い、この問題に関する認知度向上や、解決のための情報・知識の普及に取り組んでいる。


肥満の子型糖尿病

• よりヘルシーな学校給食
現代の子供たちは、1日分のカロリーのおよそ半分を学校給食で摂取しているのだそうだ。従って、学校給食は、ヘルシーな食生活への転換に大きく貢献する分野であるため、栄養バランスがよくヘルシーな食事に変えていくことは非常に重要な要素となる。そこで、学校のみならず、地域団体や企業が協力し、全力を挙げて学校給食のヘルシー化に取り組んでいる。
たとえばUSDAは、「よりヘルシーな学校給食チャレンジ」を実施してヘルシーミールのガイドラインを設定しているのだが、このガイドラインをクリアしている学校の数を、この先1年間で2倍に増やすことを目標とし、学校栄養協会や全国学校理事協会、グレートシティースクール・カウンシルほか、各地域団体が地域の学校へ栄養アドバイスを行いながら目標達成に向けて取り組んでいる。
また、企業や学校、施設への給食サービスの大手企業であるアラマーク社やソデクソ社は、この先5年間から10年間の間に、糖分、脂肪分、塩分を徐々に減らしていき、全粒粉、そして野菜の使用については2倍に増やすメニューを提供していくことを確約している。

 
• ヘルシー、かつ安価な食料品へのアクセス

現在、約2300万人のアメリカ人(うち子供は650万人)は、低所得者層の地域に住んでおり、スーパーマーケットまで1マイル以上離れている、という居住環境であるケースが少なくない。このように、安価で、品質上も安心できる、栄養ある食品へのアクセスが限られている地域のことを、「Food Deserts(食料砂漠)」と呼んでおり、食料砂漠では、栄養バランスのよい食品を摂取することができないために、子供の肥満率がほかの地域よりも高くなっている。
USDAの2008年度調査によると、このような食料砂漠に居住する人々を中心に、全米で約490万人の人々(うち、子供は約167万人)が、食糧難に直面した経験がある、という。
「Let's Move!」では、食料砂漠を7年間で皆無にすることを目標とし、オバマ大統領により2011年度予算の中に、食料砂漠地域に、ヘルシーな食材を販売する食料品店などを設置するための補助金を組み込んでいるほか、農家が各地のコミュニティーで出張販売を行う、ファーマーズ・マーケットの普及のための補助金も組み込み、農家支援と地域住民支援の両面から取り組んでいる。


 
• 運動の促進
肥満問題は、食という観点からのアプローチのみで解決できるようなものではない。子供のころから体を動かす習慣を身につけ、アクティブなライフスタイルを送ることも、同様に大切なことであるのだ。しかし現代の子供たちは、1日平均7.5時間もの時間を、テレビや映画、ビデオゲーム、携帯電話、コンピューターの使用に費やしており、全国の高校生のおよそ3分の1程度しか、適切な量の運動を行っていない、という現状である。
子供の運動を促進するため、まずオバマ政権では、米国保険省内に「フィジカルフィットネス&スポーツ・カウンシル」を結成し、子供たちとその家族のアクティブライフスタイルの向上を呼びかけている。


中でも、1週間に5日間、規定以上の運動を行うことを6週間続けた家族にアワードを授与する、オバマ大統領考案の「アクティブライフスタイル・チャレンジ」を実施しており、このアワードの授与者数を、2010年〜2011年の間に前年度の2倍に増やすよう、積極的に呼びかけを行っている。
また、全米プロフットボールリーグ(NFL)やメジャーリーグプロ野球(MLB)、女子プロバスケットボールリーグ(WNBA)、メジャーリーグサッカー(MLS)などの協力を得て、「Let's Move!」の一環として「60 minutes of Play a Day (1日60分遊ぼう)」キャンペーンPSAを制作、全国放映し、子供の肥満問題についての認知度を高め、この問題を今世代中に解決しよう、と取り組んでいる。

Partnership for a Healthier America「Let's Move!」は、ミッシェル・オバマ大統領夫人が中心となって展開されている、政府主導のイニシアチブであるが、無論、政府の取り組みだけでは子供の肥満問題の解決は実現できない。各州、地域コミュニティー、NPO、企業、すべてがエンゲージしながら一体となって取り組むことが必要なのである。
これらの協同を円滑に進め、「Let's Move!」を民間レベルで協同展開することができるよう、子供の肥満問題を様々なアプローチから専門的に取り組んでいる各種財団が集まり、「Partnership for a Healthier America」という組織が結成された。たとえば、アメリカで最大のヘルスケア専門財団であるロバード・ウッド・ジョンソン財団や、シリアルのケロッグ社の創始者により設立された、子供のウェルフェアを促進する団体、W.K.ケロッグ財団などであり、今後もこの組織に参加する団体を募り、ヘルシーなアクティブライフスタイルに関する多角的な視野を集結させ、この社会問題に全力を挙げて取り組んでいく予定だ。


ミッシェル・オバマ大統領夫人は、自身の経験を次のように語っている:
「二人の娘が生まれてから、ある時小児科医に呼ばれました。その時、オバマ家ではジャンクフードが若干多すぎる、との指摘を受け、子供たちのために、よりヘルシーなライフスタイルへとシフトさせようと決意しました。多くの親たちは、正しいことをしようとしても、周囲の様々な環境が、それを難しくしてしまっている、と感じているのではないかと思います。だからこそ、我々すべてが協力しあいながら、ヘルシーライフスタイルを阻んでいる複雑な障壁を一つ一つ取り除いていくことが必要だと感じています。この社会問題を解決するために必要なツールは、実は我々はすでに持っているものであり、唯一欠如しているのは、解決しよう、変化しよう、という「意思」なのです。さあ、Let's Move !」

【執筆】 ASPIRE Intelligence 社代表  リップシャッツ 信元 夏代



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